「障害者手帳は取ったけれど、お金の支援はないの?」
「働いてはいるけど、収入が不安定で生活が苦しい」
発達障害があって、こんなふうに感じている方は少なくないと思います。運営者自身もADHD(注意欠如・多動症)の当事者で、診断を受けたあと「使える制度は全部知っておきたい」と思って調べました。そのなかで、意外と知られていないのが障害年金です。
障害年金は、手帳とはまったく別の制度です。そして「発達障害は対象外」と思い込んでいる方が多いのですが、それは誤解です。ADHDやASD(自閉スペクトラム症)も障害年金の対象になり得ます。
ただし、公的な年金制度なので要件は厳密です。この記事では、発達障害で障害年金を受給できる可能性、障害基礎年金と障害厚生年金の違い、3つの受給要件、等級の判定基準、2026年度の受給額の目安、そして申請手順までを、できるだけ正確に整理しました。読み終えるころには「自分は対象になりそうか」「次に何をすればいいか」が見えてくるはずです。
なお、年金の制度は複雑で、個別の判定は最終的に年金事務所や社会保険労務士(社労士)の専門家にしか正確に判断できません。この記事はあくまで全体像をつかむためのものとして読んでください。
障害年金とは、病気やケガによって生活や仕事に支障が出ている人の生活を支えるための、公的な年金制度です。「年金」という言葉から老後にもらうものを想像しがちですが、障害年金は現役世代でも受け取れます。20代でも30代でも、要件を満たせば対象です。
そして発達障害(ADHD・ASD)も、障害年金の対象疾患に含まれます。日本年金機構や厚生労働省の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」でも、精神障害・知的障害と並んで発達障害が明確に位置づけられています。
ここで大事なのが、障害年金は障害者手帳とは別の制度だということです。手帳を持っていなくても障害年金は申請できますし、逆に手帳を持っているからといって自動的に年金がもらえるわけでもありません。判定の基準も窓口も別です。
手帳のメリット・デメリットについては、障害者手帳のメリット・デメリット完全ガイドで詳しくまとめています。手帳と年金、両方を整理しておくと制度の全体像がつかみやすくなります。
障害年金には大きく2種類あります。どちらに該当するかは、初診日(後で詳しく説明します)にどの年金制度に加入していたかで決まります。
項目 | 障害基礎年金 | 障害厚生年金 |
|---|---|---|
加入していた制度 | 国民年金(自営業・学生・無職・専業主婦など) | 厚生年金(会社員・公務員など) |
対象の等級 | 1級・2級 | 1級・2級・3級 |
上乗せ | なし | 障害基礎年金に上乗せされる(1・2級の場合) |
3級・障害手当金 | なし | あり |
ここでポイントになるのが、障害厚生年金のほうが受け取れる範囲が広いという点です。障害基礎年金は1級・2級しかありませんが、障害厚生年金には3級があり、さらに3級より軽い場合の一時金「障害手当金」も用意されています。
つまり、会社員として働いているあいだに初めて病院にかかった場合は、より幅広く救済される厚生年金の対象になる可能性があります。「いつ初めて受診したか」がとても重要になる理由のひとつです。
正直、運営者もここを最初に理解するのに少し時間がかかりました。「初診日の制度ってどっちだったかな」と曖昧なまま放置すると、あとで困ります。心当たりがある方は、早めに自分の当時の加入状況を思い出しておくと、あとがスムーズです。
障害年金を受け取るには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。ひとつでも欠けると受給できません。逆に言えば、この3つをクリアできるかどうかが最初の関門です。
初診日とは、その障害の原因となった病気やケガで、初めて医師の診療を受けた日のことです。発達障害の場合、ここに独特の注意点があります。
知的障害を伴わない発達障害(ADHDやASDなど)は、その症状で初めて医療機関を受診した日が初診日になります。たとえば「うつっぽさや不眠で精神科を受診したら、後から発達障害と診断された」というケースでは、発達障害と診断された日ではなく、最初に受診した日が初診日になることがあります。
一方、知的障害を伴う発達障害の場合は、生まれた日が初診日として扱われます。この場合は次に説明する保険料納付要件は問われません。
初診日がいつかによって、障害基礎年金になるか障害厚生年金になるかが変わります。だからこそ、古いカルテや受診記録を探しておくことが申請の第一歩になります。
公的年金なので、保険料をきちんと納めてきたか(または免除手続きをしていたか)も問われます。原則は次のとおりです。
これに加えて特例があります。初診日が令和18年(2036年)3月末までにある場合は、初診日時点で65歳未満であれば、初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ要件を満たすとされています。
そして重要なのが20歳前の特例です。20歳より前に初診日がある場合(先ほどの知的障害を伴うケースや、未成年で受診したケース)は、保険料納付要件そのものが問われません。学生時代や子どもの頃から症状があった方は、この特例にあたる可能性があります。
最後に、障害認定日の時点で、法令の障害等級表に定める状態に該当している必要があります。障害認定日とは、原則として初診日から1年6か月を経過した日です(20歳前に初診日がある場合は20歳に達した日)。
ここで見られるのは「日常生活にどれだけ支障があるか」です。診断名がついているだけでは足りず、生活や就労にどの程度の困難があるかが審査されます。この中身が次の章のテーマです。
ここまで読んで、「自分は3つとも満たせそうかな」と少し不安になった方もいるかもしれません。要件は厳密ですが、特に発達障害の場合は初診日と障害状態の伝え方で結果が変わることもあるので、あきらめずに確認していきましょう。
障害年金の等級は、「診断名」ではなく「日常生活や社会生活でどれだけ困っているか」で判定されます。ここが発達障害の障害年金で最もつまずきやすいポイントです。
精神の障害の審査では、診断書に記載される「日常生活能力の判定」(食事や金銭管理、対人関係など7項目を4段階で評価)と「日常生活能力の程度」(全体像を5段階で評価)が大きな材料になります。厚生労働省の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」では、この2つの組み合わせから等級の目安を出し、さらに就労状況や療養状況、生活環境などを総合的に考慮して認定医が判断するとされています。
発達障害の等級のイメージは、おおまかに次のとおりです。
等級 | 状態のイメージ |
|---|---|
1級 | 社会性やコミュニケーション能力が著しく欠け、不適応行動が強く、日常生活に常時援助が必要 |
2級 | 社会性やコミュニケーション能力が乏しく、日常生活への適応に援助が必要 |
3級(厚生年金のみ) | 社会性やコミュニケーション能力が不十分で、労働が著しく制限される |
注意したいのは、これはあくまで目安だということです。同じ診断名でも、人によって生活への影響はまったく違います。だからこそ、自分の困りごとを診断書にきちんと反映してもらうことが結果を左右します。
発達障害のある方は、自分の困難を「これくらいみんな普通だろう」と過小評価して医師に伝えてしまいがちです。運営者も、診察のときに「特に困ってません」と反射的に答えてしまうクセがありました。日常生活能力で判定される制度である以上、困っていることは具体的に伝えることが大事だと実感しています。
「結局いくらもらえるのか」が一番気になるところだと思います。2026年度(令和8年度)の金額をベースに、目安を紹介します。ただし障害厚生年金は人によって大きく変わるので、あくまで参考としてください。
障害基礎年金の年額(2026年度)は、おおむね次のとおりです。
これに加えて、生計を維持している子どもがいる場合は子の加算(1人目・2人目は1人あたり年額 約243,800円、3人目以降は1人あたり年額 約81,300円)がつきます。
障害厚生年金の場合は、上記の障害基礎年金(1級・2級のとき)に、これまでの報酬や加入期間に応じた「報酬比例の年金額」が上乗せされます。報酬比例部分は個人差が大きいため一律の金額は出せませんが、3級だけの場合でも最低保障額として年額 約635,500円が設定されています。
数字を並べましたが、これらはあくまで2026年度の目安です。年金額は毎年見直されますし、配偶者の有無や加入歴によっても変わります。正確な見込み額は年金事務所で試算してもらうのが確実なので、「だいたいこのくらいなんだ」という感覚をつかむ材料として受け取ってください。
ここは誤解がとても多いところなので、はっきりさせておきます。「働いていると障害年金はもらえない」は正確ではありません。
障害年金(特に精神の障害)は、収入の有無ではなく日常生活能力で判定されます。実際、働きながら障害年金を受給している方は珍しくありません。
ただし、現実には「働けている=症状が軽い」と受け取られやすい面があるのも事実です。だからこそ、就労していること自体ではなく、どういう状態で働いているのかを正確に伝えることが重要になります。たとえば、
こうした事情があるなら、それは「配慮があるから働けている」という客観的な事実です。等級判定ガイドラインでも、就労していても、その仕事の種類や内容、職場でのサポート状況などを十分に確認したうえで判断するとされています。
障害者雇用で働いている方は、障害者雇用の給料は低い?収入の実態と上げ方もあわせて読んでみてください。働き方と収入、そして年金をセットで考えると、生活の見通しが立てやすくなります。
なお、20歳前に初診日があり保険料を納めずに受給する「20歳前傷病による障害基礎年金」には、本人の所得による支給制限があります。ここは一般の障害年金とは扱いが違うので、自分がどのパターンか窓口で確認しておくと安心です。
ここからは、実際に申請するときの流れです。発達障害の申請は書類が多く、準備に時間がかかるので、全体像を先に押さえておくと動きやすくなります。
おおまかな流れは次のとおりです。
主な必要書類は、次のようなものです。
書類 | 内容 |
|---|---|
受診状況等証明書 | 初診日を証明するための書類。初診の医療機関に作成してもらう |
診断書(精神の障害用) | 主治医が症状や日常生活能力を記載する。最も重要な書類 |
病歴・就労状況等申立書 | 発症から現在までの経過を自分で記載。発達障害・知的障害は生まれてから現在までまとめて書く |
年金請求書 | 提出窓口で受け取る基本の請求書 |
その他 | 住民票、年金手帳または基礎年金番号がわかるもの、振込先の通帳の写しなど |
窓口は加入状況によって違います。自営業や無職などの第1号被保険者は市区町村役場、会社員などの第2号・第3号被保険者は年金事務所や街角の年金相談センターが基本の窓口です。
特に発達障害で大変なのが、病歴・就労状況等申立書です。生まれてから現在までの経過を書く必要があり、就学・就労の状況、転職や休職の経緯なども整理することになります。
休職を経験した方は、その期間の記録も大事な材料になります。発達障害で休職したときの過ごし方と復職ガイドを読み返しながら、当時の状況を思い出すと書きやすくなるはずです。
最後に、申請でつまずきやすいところを正直にお伝えします。発達障害の障害年金は、要件を満たしていても伝え方ひとつで結果が変わることがある、難しい申請です。
つまずきやすいのは、次のような点です。
特に発達障害の場合、二次障害としてうつや不安障害を併発しているケースも多く、初診日の考え方が複雑になりがちです。
二次障害については発達障害と二次障害(うつ・不安障害)の関係で整理しています。どの症状でいつ最初に受診したかは初診日の判定に直結するので、二次障害がある方は特に確認しておくとよいと思います。
こうした難しさがあるからこそ、障害年金を専門にしている社労士に相談するのも有効な選択肢です。社労士は初診日の証明方法や診断書のチェック、申立書の作成サポートまで手伝ってくれます。費用はかかりますが、自分一人で進めて不支給になるより、最初から専門家と進めたほうが結果的に近道になることもあります。
まずは無料でできることとして、年金事務所の窓口に相談してみるところから始めるのがおすすめです。「自分は対象になりそうか」「初診日はいつになりそうか」を確認するだけでも、次の一歩が見えてきます。
ここまで、発達障害と障害年金について整理してきました。最後にポイントを振り返ります。
障害年金は、知らなければ受け取れないままになってしまう制度です。運営者も調べてみて「もっと早く知りたかった」と感じました。生活の不安を少しでも減らすために、まずは自分が対象になりそうか確認してみてください。
より広く発達障害と働き方・お金の全体像を知りたい方は、発達障害と仕事のキャリア完全ガイドもあわせて読んでみてください。
なお、障害年金と就職・転職を並行して考えている方は、発達障害の障害者雇用完全ガイドで、配慮を受けながら働く方法も確認しておくと安心です。
制度の最新情報や個別の判定については、必ず公的な一次情報と専門家で確認してください。
「障害年金が使えるか調べたいけど、まずは働き方そのものを見直したい」
「配慮を受けながら、収入も安定させられる職場を探したい」
そんなときは、発達障害の特性を理解した障害者雇用専門の転職エージェントに相談してみてください。年金や制度の話だけでなく、自分に合った働き方や収入の見通しまで含めて、一緒に整理してくれます。いずれも無料で利用できます。
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この記事は個人の体験に基づくものであり、医療的なアドバイスではありません。 発達障害の診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。 また、記載されている情報は執筆時点のものであり、最新の情報と異なる場合があります。
社会人になってからADHDの診断を受けた当事者。地方在住でフルリモート勤務、年収800万円のフロントエンドエンジニア。転職5回の経験から、発達障害のある方のキャリア形成に役立つ情報を発信。
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